■ヒメリンゴ(姫林檎)■  バラ科 リンゴ属 原産地:北東アジア 


リンゴを小さくしたような実をつけた様子が愛らしい植物。
花は蕾の時は紅色で、開花して白色になります。
別名イヌリンゴとも呼ばれ、食べても不味いようです。

■話の内容はフィクションです

「石や〜きい〜も〜 焼〜きたて」
焼き芋屋の声を聞いた時、そうだもう秋だよな。薄手のシャツ一枚で歩いている悟にとてつもない寂寥感が押し寄せてきた。
ひとり暮らしってのも面倒な事が多いよな。外していた第一ボタンを留め、足早に家へと向った。

10年程、同棲していた彼女とつい1ヶ月ほど前に別れた。
あまりに突然の出来事に事態を把握する間もなく、パソコンの画面に打ち込まれていた
「もう限界」という短い言葉に呆然とした翌日、聡子が手配した引越屋がすっかり荷物を運び去ってしまった。

あれから何の音沙汰も無く、当然だよなと思いながらも1週間も経てばメールくらいくれるだろうと高を括っていた。
しかし1ヶ月経っても状況は変わらない。
俺からメールを送るべきだろうか。待つべきなのか。それともこのまま事を荒立てずに忘れるべきか。
あれこれ考え倦ねても、結局戻ってきて欲しいんだよな。

ふと見上げるともうマンションの前まで来ていた。
毎日こんなことばっかり考えてたら、頭が変になっちまうよ。コンビニで酒でも買って、風呂入って寝るかな。
向きを変え、道を引き返そうとした時「危ないよ、兄ちゃん」という声が耳にこだました。
危うく焼き芋屋の軽トラにぶつかりそうだったのだ。
でも、何もスピーカーで言わなくてもいいじゃないか。少しムッとしたが、とりあえず頭を下げて通り過ぎようとした。
「兄ちゃん、さっきも会ったよな。」
「は?...」
「ほら、そこの坂の下にいた兄ちゃんだろ。今日は秋一番の寒さだってラジオで言ってたしよ。
 あんな格好じゃ寒いだろうなと思って見てたんだよ。ほら、やっぱりそうだ。鳥肌立ってるじゃないか。」

ほらほらうるさい奴だな、ほっといてくれ。厚手のものが何処に入ってるかわからないんだよ。
軽トラのサイドミラーをちらっと見ると、熊だか犬だかの人形がぶら下がっている。
確かにさっきの焼き芋屋のおやじみたいだな。坂の途中ですれ違った時にあの変な人形を見た気がする。
どちらにしても面倒はごめんだ。この場は知らぬ存ぜぬで切り抜けよう。
「人違いです。」
「そうか〜?俺の目に狂いはないんだけどな。ま〜どっちにしても寒いんだろ。」

その断定口調やめてくれないかな。何がわかるっていうんだ。俺は今からビール飲んで寝るんだよ。
おやじに付き合ってる暇はないんだよ。
「時間が無いんで。」
「最近の若い奴は、時間が無い、忙しいってそればっかりだ。一分1秒も無いのか。」

もうやめてくれ、鬱陶しい。腹立つんだよ。おやじを一瞥して立ち去ろうと俯いていた顔を上げた時、
いつ降りたのか、おやじが焼き芋をひとつ目の前に差し出した。
「何ですか、要りません。」
「1日1善っていうじゃないか。昔の人はよく言ったもんだ。これでも食って元気出せよ。」

手渡された焼き芋の暖かさについ立ち止まってしまった。

こんなこと出来過ぎた話かもしれないが、結局1時間程おやじさんと立ち話をしてしまった。
自分でも不思議なくらいこのお節介おやじに引き寄せられてしまったのだ。
その理由はただひとつ。おやじさんの息子の話を持ち出されたからだ。

おやじさんの息子は、俺より3歳上。35だ。
大学院生の頃から付き合っている彼女と今だ結婚せず、その見通しも立っていないらしい。
あの変な人形は彼女がおやじさんにくれたもので、長距離のトラック運転手をしていた頃にお守りとして作ってくれた。
息子が就職したらふたりは結婚するだろうと思っていたが、いつになってもその気配は無い。
ある時、遊びに来ていた彼女に「結婚しないのか」と尋ねたところ、自分はいつしてもいいと思っているが、
その話を持ち出すと息子は決まって「疲れてる。忙しい。今度な。」の3言いって、まともに取り合ってくれない。
つい先日、彼女に会った時ずいぶん頬がこけていて、疲れた様子だった。
あの表情を見てわかった。ふたりはそう長く続かないことを。
「長過ぎた春」という言葉があるが、春なのか冬なのか。彼女にしてみれば、曖昧な季節だったに違いない。
ふたりがどういう結果になろうとも、自分が口を出すことではないが、彼女の気持ちを思うと申し訳なくて、
息子の尻を叩いてやりたくなる。けじめって奴は、男を強くすると思うんだけどな。

「兄ちゃんの姿を見たら、またふたりのことを考えちまって。どうこう言っても、俺にはどうする事も出来ないしよ。
 でも、兄ちゃんに付き合ってもらったらすっきりしたよ。兄ちゃんに芋食ってもらって、1日1善。
 明日はいいことがあるかもしんね〜。」

ほとんどそうっすか、そうっすね。しか言っていなかったが、随分たくさん会話をした気がする。
「芋食って、ゆっくり寝ます。」
「そうか。風邪ひかないように、気を付けてな。これ、さっき見つけたんだ。これをこれにくっつけると、
 ほら、雪だるまみたいでかわいいじゃね〜か。なっ。」

坂の上にあったという姫林檎の木の枝を、人形の肩に挿して嬉しそうにしている。
姫林檎の木のある場所を聞き、俺もそれを彼女に渡し行きます。とおやじさんに告げた。

「い〜ね〜、幸せ者の顔は一番だ。ありがとな。」
俺の状況を知らないおやじさんは、スピーカーの音量を上げ、去って行った。
「何にも知らないくせによ。」
苦笑しながら、冷めてきた焼き芋を鞄に入れ、姫林檎の木へと向った。


■ point ■

太めのワイヤーをクルクルと丸めて、花立てにしました。
水盤にこのような花立てを入れて生けると、植物の線をいつもと違った雰囲気で
楽しめると思います。