■ツタ(ナツヅタ)■ ブドウ科 ツタ属
ツタはナツヅタともいい、夏緑性の植物。秋には紅葉し、落葉もする。
目立たない花が咲き、紫紺色の小さな果実ができる。イメージとしては小さなブドウだけれども、
とても渋く食べられない。鳥は好きらしいですが。
■話の内容はフィクションです

大泉3丁目の角には、ノラ猫たちが集まる駐車場がある。
彼らは天気の良い日中には大抵くつろいだ様子で毛繕いをしたり、寝そべったりしている。
仕事の合間を縫って散歩をするのを日課にしている私は、近所にあるこの駐車場の猫たちに名前をつけて
楽しんでいる。白と黒のぶちの猫は、頭のあたりが黒くて七三分けのように見えるので「お疲れさん」。
茶トラの品の良さそうな猫は「おいでやす」。雉トラで歳のせいか頭の天辺が少し薄くなっていて、威厳のある
表情の猫は「ご苦労さん」という風に。
そんな猫たちとは、駐車場ではなくどこかの家の角でひょっこり出くわすことがあって
そんな時は「お疲れ様です」とか「おいでやす〜」とか声を掛けてみる。
すると意外にも振り返ってこちらを見たりするのだ。
こんなことを楽しんで気分転換している。
最近気づいたことだが、一日に2回ミャッとかミャ〜とか甘えた声で鳴きながら集まる時間があって、
それは午後1時と6時と決まっているようなのだ。特に猫好きということでもないのだが、名前をつけて遊んでいるうちに
情みたいなものが芽生えてしまったようで、あの甘えた声を出させる主の正体を知りたいと思うようになった。
そこで今日は、きっちり1時に駐車場へ着く様に家を出た。
予定通りの時間に駐車場の前に来ると、彼らはいつも通り甘えた声を出しながら集まり始めた。
普段ならその様子を見ながら通り過ぎてしまうのだが、今日は道を隔てて反対のプロック塀に凭れながら
タバコをふかして待つことにした。
5分くらい経っただろうか、どこからともなく集まった20匹程の猫たちが一斉に入口目がけて走り出した。
何もいるはずもない、少なくとも私には何も見えない通りを注意深く見遣ると
遠くの方から「ズルッ...ペタッ...ズルッ...」という音が近づいてくるのにやっと気づいた。
その主は浮浪者だった。そう決めつけてしまうのは勝手な想像かもしれないが、姿を見る限りそれ以外の
何ものでもないように思われる。そして主は両手に大事そうにビニール袋に入った餌をぶら下げて近づいて来た。
靴の底は剥がれかかとが見えてスリッパのようになっていて、ズボンの裾は地面に擦れてほつれている。
そしてそれらを地面にこすりつけるようにして歩く足音が、猫たちへの合図なのだ。
彼らは人間には聞こえないほんの小さな音を察知して、姿が見える前に集合していた訳か...。
それとも正確な腹時計を持っているのだろうか。
私は感心となおも深まる興味の眼差しで、食い入るように成りゆきを見守った。
遅れてやってきた猫たちも含めて30匹ほどに餌を与え終わると、主は満足そうに彼らを見渡し年期の入ったビニール袋を丁寧に折畳んでから、上着のポケットに入れた。
猫たちはいともあっさりと四方八方に散らばり、毛繕いを始めた。
なるほど餌をくれる相手にならあんな声も出すよな。と妙に安堵した気持ちで仕事の続きをしようと歩き始めた私は、雉トラの「ご苦労さん」が主の後を追うように
駐車場から出て行こうとしているのに気づいた。他の猫たちよりも先に緩慢な動作で「俺様が一番なのさ」とばかりに餌に食いついていたのを見ていたから、
餌をねだっているのではないことは解っていた。だから尚さら興味が湧いてきて、仕事はもう少し後でも問題ないからな。と考え直し、さらに2人の後を追うことにした。
駐車場から3つ目の信号を左に曲り、最近建て直したばかりのコンクリート打ちっぱなしの家の横の路地を入ると両脇に木造のこぢんまりした家が立ち並ぶ場所に出た。
奥には、この辺りの住民が作ったのであろう木製の階段があり、それは見覚えのある道へとつながっているようだった。
「階段を登るとあの駐車場へつながる道に出るのか。」毎日歩いている道のすぐ脇にこんなところがあるなんて気づかなかったな。
いや、そういえば知っていたような気もする。目線が変わるとこんなにも違って見えるもんなんだな。
などと探検をしている少年のような気分になっている間に、2人の姿を見失ってしまった。
階段の下にいるのを確認したから... 登って右か左か!
慌てて走り、階段を登ろうとして脚を掛けた時「ニャ〜ニャ〜」という複数の幼い鳴き声が聞こえた。
そっと下を覗くと、階段と段差になっているコンクリートの間に三角の隙間があり、そこに背を丸めて小さくなったあの主とご苦労さんが見えた。
このままでは不自然なくらいあまりに接近しすぎているので、とにかくゆっくりと登りかけた階段を降りて木造の家の脇に隠れるようにして2人の様子を窺った。
幼い鳴き声はご苦労さんの子供たちだった。
それをじーっと見つめている主は、ポケットから丁寧に折畳んだビニール袋を出したり引っ込めたりしている。
餌を子供たちにあげたいけれど、さっき空っぽになってしまった。どうしたらいいんだろう。と考えあぐねているようだ。
そんなことは気にも留めていない様子で、ご苦労さんは子猫たちの毛繕いをしている。
木造の家に覆い茂っている蔦の緑色を爽やかな気分で見渡した後、見なれない路地を縫いながら遠回りして家に戻り、
冷房の効いた部屋の窓を全開にして深呼吸した。
湿度の多い空気の中に緑の香りの粒を感じ、「これからは ご苦労様です だな。」とつぶやいた。

■ point ■
ツタの先端の小さい葉の部分のみを剪定し、線を活かしてやわらかく生ける。
花は、つぼみと弾けたものを少しだけ生けてアクセントにしました。
使用した素材:クレイ・パイプの一部
ナツヅタの紅葉は、とても美しいです。環境によって紅葉の仕方も様々。
クレイ・パイプとは
パイプによる喫煙は、16世紀半ばを過ぎてからイギリスで始まり、それに次いで対岸の
オランダへ広まった。この頃使用されていた陶器製のパイプをクレイ・パイプという。
その後、より強い耐久性を求めて金属製のパイプが作られるようになった。
※画像にあるクレイ・パイプの一部は、パイプの頭部の部分。
本来はくちばしの様に見える部分に管が繋がっているものです。