■ピラカンサ■ バラ科 ピラカンサ属 原産地:欧州南部〜小アジア
冬に鮮やかな赤や黄色の小さな果実を鈴なりにつける植物。
和名はトキワサンザシ。
■話の内容はフィクションです

連日の忘年会も昨夜で終わり、今日からやっと冬の休みに入った。昼まで眠ったのはいつ頃振りだろう。
週末の休みも、家族サービスやら接待やらで、満足に昼寝をする事も出来なかった。
もともと貧乏性だから、休む時間があるとそわそわしてじっとしていられない。
だからこういう生活が性にあっているんだろうな。
窓から照らされる太陽の光は、俺の顔にほぼ垂直に注がれている。掌をあてがいながら、
外を眺めるとそこには撓わに実をつけたピラカンサの赤が目にしみた。
2年前の正月、初詣に出掛けた時のことだった。
こどもの頃から慣れ親しんでいる近所の神社へ行くと、境内は溢れんばかりの人出で熱気に包まれていた。
例年は閑散としていたこの神社には、その年から美味しいと評判の屋台が出店するようになり、
テレビでも中継されていたのだ。さすがにその影響が大きかったようだ。
妻の早苗は、白い息をはきながら「これじゃ、お賽銭は無理ね。」とがっかりした様子で、
どうする?という視線を注いできた。俺も一時は引き返そうかと思ったが、たまにはこんな初詣もいいんじゃないかと
乗り気でない早苗の背中を押して列の中に紛れていた。
ようやくお賽銭箱の姿が見え隠れしてきた頃「もう我慢出来ない。手も脚も氷みたいになっちゃった。
これ以上待ったら、ポキンと折れちゃいそうよ。」鼻を真っ赤にした早苗が訴えてきた。
「そうだな。また明日くればいいし、明日はもっと厚着をしてこような。」
列から抜け出そうと早苗の手を引こうとした時、右手に5円玉を握りしめていた事に気づいた。
そのままポケットに仕舞えば良かったのだが、折角来たのだからという軽い気持ちで、お賽銭箱を目がけて
それを思いっきり投げた。視界から5円玉が見えなくなり、その直後カーンという音とともに5円玉が
鐘に命中した事を知った。
これが、翌年の不運を招く事になるとは...。
いつもと変わらぬ新年を迎え、いつもと同じような生活。でも何かが違っていた。
駅の階段で転んで骨折。財布を落す。胃潰瘍。上司と喧嘩。免停。
今年はツイてない。
仕事から帰り、早苗となんでこんなにツイてないのか話し合っていた。
すると横で背中を丸めながら編み物をしていたばあちゃんがぼそぼそと何かを言っている。
「ばーちゃん、なんて言った?」
「○×△○×△...」夕食が済むと入れ歯を外してしまうので、聞き取りにくい。
「赤い実を玄関に置きなさいって。」早苗にはわかるらしい。
「赤い実って厄よけの効果があったっけ?聞いた事ねーな。ばーちゃん、たまに適当なこというからな。
たぬきが山から下りてきてトマトを食う。とか、アメリカ人は、トーストをコーヒーに浸して食べるとか。
子供の頃、調子に乗って友だちにしゃべってたら思いっきり馬鹿にされたもんなー。」
「○×△...っっっっっ」ばーちゃん、笑ってる。
「○×△○×△.....」編み物をしていた手を止め、自分の部屋に戻ってすぐに引き返してきた。
入れ歯を装着してきたようだ。
「早苗さん、あんたは大丈夫。礼儀正しい人だからね。俊介、あんたはダメ。
頂きます、ご馳走様もちゃんと言えないようじゃ、罰があたって当然だよ。
お賽銭を投げたから神さんが怒ったんじゃないよ。投げるような気持ちだから罰があたるんだ。」
「ご馳走様は、ご馳走を頂いたから言うんじゃないだろう。食事を作ってくれた人、食べられることへの喜び、自然への感謝の気持ち、
健康であることの大切さ。色んなことへ感謝を込めて言う言葉だ。それは、神さんに対しても同じことだよ。
年1回こっきりのお参りで、お願い事ばかり並べられてごらん。神さんだってうんざりだ。年1回でもいいさ。ならば、とにかくありがとうが最初だろうが。
家の庭にある赤い実の木があるだろう。あれは、あたしの母さんがこの家に嫁いで来た時に父さんが植えたもんだ。
冬になって赤い実がついたのを見た時「今年も1年間、生きられました。」と嬉しくて、手を合わせたと言っていたよ。
毎年冬になるとその話をされてたからね。うるさい人だと思ったよ。でも、今になるとわかるんだ。その気持ちが大切だってね。」
それを言い終えると、ばーちゃんはそそくさと毛糸をしまい始めた。
こういった話の場合、中途半端なことを聞き返すと長い説教が始るのを知っていたので、とにかく無言で頷いていた。
早苗も正座を崩さず、ひたすらじーっとしていた。
「お風呂お先に頂きますよ。」ばーちゃんが部屋から出て行った途端、ふたりは は〜っと息を吐き、正座を崩した。
「あの赤い実、とりあえず玄関に置いておいたら?折角言ってくれてるんだし、やらないと機嫌を損ねるでしょう。」
早苗の意見に同意し、翌日から玄関に置くことにした。
赤い実が玄関にあるのが当たり前の風景になった頃には、12月も終わろうとしていた。
不思議なことにあれ以来、怪我や病気をすることもなく、無事に過ごすことができた。
いつもと同じ神社へ初詣に向い、きちんとお参りを済ませた新年は、息子も誕生し、喜び一杯の年になった。
「ばーちゃん、今年はこんな風にしてみましたよ。どうですかねー。」
早苗は、縁側で息子と一緒にうとうとしているばーちゃんに話し掛けている。
「そっとしといてやれば。気持ち良さそうだし。ばーちゃんは、早苗のやることには
何でも賛成さ。俺がやると、何でもダメ。だけどな。」
俺は遅い朝食を食べながら、3人の様子を見て口を出した。
「そうね、取りあえずよしってことで...」言い終わるか終わらない時、
「○×△○×△...」ばーちゃんが寝言を言った。
「かーちゃん、ごめんなさい。ですって。怒られてる夢でも見てるんじゃないの?」
ばーちゃんも叱られてた時があるんだよな。ばーちゃんも昔は子供だった訳だし。
来年、家を建て替える時にはこの木だけは残すことにしよう。
そしてこれを種に息子に説教してやるぞ!
■ point ■
1月は、漆の器をつかって新年を祝う気持ちで赤いものを生けました。
今回は、明治期の小さな木皿を使いましたが、お椀でも良いと思います。
木と漆、自然から生まれたものですので、あまり気取らずに素朴に生けでみてはいかがでしょうか。
花材:ピラカンサ、南天
縁が欠けてしまったお皿や、お椀。
少しだけ手を加えて、もう一度食卓の仲間に加えてみませんか。
金糸と銀糸を使って、お正月用のお菓子皿にしてみました。
金糸と銀糸を2本取で、欠けた部分に引っ掛けながらタテに3回まわして片結び。
片方の糸は、間隔を開けると華やかな雰囲気になります。
フローラルテープや針金などで、束ねておくとまとまり易いです。
巻いた部分が気になるようなら、葉を一枚くるっと巻いてカバーしてみてください。
銀糸、金糸