ラクはあまり興味がないようです
■エノコログサ(犬ころ草)■ イネ科 夏〜秋
犬ころ草(イヌコロクサ)が転訛してエノコログサになったようです。別名「猫じゃらし」。
仔犬や子猫のおっぽのようでもあることからこの名前がついたと思われます。
■話の内容はフィクションです

祖父の墓参りを終え、家路についた頃には夜中の3時をまわっていた。
荷をほどき、土産物を整理した後、目覚ましを10時にセットしてベットに潜り込んだ。
先月、兄の洋一が結婚した。
友人の式には何度か出席したことはあったが、身内のこととなるとさすがに感慨深く、こみ上げてくるものを
堪えるのに必死になる場面が何度かあった。
兄貴と俺は3才違いだから、中学まではよく学校で顔をあわせることがあってその度に「俊、上向いて歩けよ」と
注意されたものだ。
兄貴は親父に似て、がっしりした体格で親分肌だった。それに比べて俺は、母親似で色白の華奢な体格だったので
友人からもからかわれていた。そして、いつの間にかあだ名は「もやしの俊」になっていた。
俺は友人が悪意を持ってそう呼んでいるのではないことは解っていたので、逆にからかわれるのを楽しんでいたのだが、
兄貴としてはどうも気掛かりなようで、会う度に声を掛けてきた。
そんなある日、「来週、転校することになったよ。洋一にはまた志望校を選び直してもらわなきゃいけない。
私立は諦めてちょうだい。俊は、友だちにちゃんとご挨拶しておいてね。」と母から告げられた。
母は、洋一にだけ親父が留守がちになった理由を伝えてあったようで、この時の兄貴の表情からは驚きも、
落胆も見られなかった。ただ強い意志と、小さな怒りだけが大きな目の奥で渦巻いているようだった。
それから数年後、兄貴は日本料理店で見習い料理人として働き始め、俺は大学進学を目指してアルバイトをしながら
勉強に励んでいた。
いつもと変わらず学校を終えた俺は、スーパーで夕飯の材料を買い、家に帰った。
母と兄貴が仕事を終えて帰るまで腹がもたないので、自分の分を作りがてら夕飯をつくるのが日課だったのだ。
とりあえずひとりで夕飯を食べ終えて、風呂に入り、勉強を始めようと食卓に参考書を広げた時、玄関のチャイムが鳴った。
また新聞の勧誘かよ。と思いながら声をかけると、「俊か?」という懐かしい声が聞こえた。父だった。
転校をした後くらいから、まったく家に戻らなくなっていた父が目の前に立っている。
辺りの様子を心配そうに伺っている父の姿は、以前の威厳のある父の様子とは全く異なっていた。
とにかく家の中に入るよう促し、広げていた参考書を閉じて椅子を勧めた。
父は椅子に座ろうとせず、玄関の鍵がしまっているかどうかを何度も確認しにいった。
その落ち着きのない様子を見て、父の現在の状況や今までの過程におおよその察しがついた俺は、
ただただその様子を息の詰る思いで見つめているしかなかった。
夜、9時ころ。兄貴が帰ってきた。
兄貴は父の姿を確認した途端、口を堅く閉ざして、部屋に隠ってしまった。
父はその様子を見て「なんて愛想のないやつだ。洋一は昔からそうだった。可愛げのないやつだ。」と舌打ちをした。
そして今度は俺の方を向いて「お前、大学行くんだってな。なんで働かないんだ。」と吐き捨てるように言った。
その直後、部屋の扉が開き、兄貴は数年前と同じ強い意志と怒りを持った目で親父を睨んでいた。
「まずいことが起きる」と直感した俺は、身近に見えていた包丁をそっと隠した。
「いつまでも雄山の大将でいられると思うなよ。」兄貴は落着いた、でも殺気すら感じさせる剣幕で言い放った。
父はこぶしを震わせ、憔悴しきった表情を歪ませてフンと鼻で笑ってから、何やらぶつぶつ言いながら出て行った。
俺は参考書を広げ、焦点の定まらない目で文字を追った。
以来、父は二度と戻らなかった。
洋一たちの披露パーティーは、和やかで楽しい雰囲気だった。
久しぶりに会った親戚たちと話に夢中になっていた頃、洋一夫婦の想い出の写真を納めてあるアルバムが回ってきた。
俺はその中の一枚の写真に釘付けになった。
遥か昔に撮った、家族写真。そこには優しい笑顔の親父と無邪気な兄貴がいた。
俺はその時、兄貴が親父を憎み、悩み、理解したことに気づかされた。
壇上で、彼女と幸せそうにしている兄貴の顔は、逞しく、やさしさに溢れていた。
式の数日後、兄貴夫婦から祖父の墓参りに行かないかと誘われた。
懐かしい景色と香で包まれた場所を思い出し、夏季休暇をそれに合わせてとることにした。
そして昨日そこへ向う車中、兄貴が言った「親父の親父はじーちゃんだよな」という言葉を忘れないでおこうと思った。
深い眠りの底から浅いところへ浮かんでくる途中、鼻がムズムズする感覚で一気に目覚めてしまった。
目を開けると目覚まし時計の10時5分を指差して、麻子がこちらを睨んでいる。
「今日は買い物に付き合ってくれるって言ったじゃん。早く起きてよっ。」
俺が昨夜スーツのポケットに入れて持ち帰った猫じゃらしを見つけてそれを得意げに持ちながら、
今にも飛びかかってきそうな麻子の顔を盗み見た。
■ point ■
夏の緑をガラスコップに生けるだけで、涼やかに感じられます。
じっとしているだけでも暑いこの季節。目で涼むというのも一考。
使用した素材:昭和初期頃のグラス
透明なグラスは、水を入れると光の反射や屈折によって、色々な表情を見せてくれます。
古いものに限らず、新しいものも今までとは違う表情をお楽しみ頂けると思います。